悔しいけど好き
にしても……

後ろ姿の鷹臣は兄から借りたただの白いTシャツにつなぎを履いて上を腰に巻き、長靴に軍手、首にはタオルと麦わら帽子を引っかけた農作業姿なのに、妙に似合ってる。
スラッとした体型に程よく筋肉の付いた腕がさまになってつい見惚れてしまう。

私も同じつなぎ着てるのにちんちくりんだ。
着馴れてる筈なのになんか悔しい。

「なに着ても格好いいとか……なんかムカつく…」

「ん?なんか言ったか?」

むうっと膨れてると鷹臣が爽やかな笑顔で振り向いた。
ふんっとそっぽを向いて「なんでもな~い」と言っておく。
格好いいとか絶対言ってあげない。

「ほら、行こうぜ」

差し伸べられた手はわざわざ軍手を脱いでいた。

「うん…」

私も軍手を脱いでその手を取り鷹臣の隣へと足を進める。
横に来た私ににっと笑って鷹臣は繋いだ手を指を絡めて繋ぎ直した。

温かい鷹臣の手にほっこりする。
つい笑顔で鷹臣を見上げ目が合うと一瞬で唇を掠め取られた。

「ちょっと!こんなとこで!」

「いいじゃん。恋人同士なんだから」

「…っ、もう…」

ちょっと嬉しくなっちゃって怒れないじゃないか。
してやったりという顔で鷹臣は歩き出す。

鷹臣は私の恋人。
嬉しくてついにやけちゃう。
こんなに満たされた気持ちは久しぶりだ。
< 113 / 325 >

この作品をシェア

pagetop