悔しいけど好き
気付かれないように鼻をすすって涙を拭いた。

「あんたこそ何してんのよ、帰ったんじゃないの?主任様」

「なんかすすり泣く声がしたから?覗いてみただけ」

「なっ…なにそれ、私じゃないわよ!」

後ろを振り返らずに文句を言うと窓越しにドアに背を預け腕組みしてる奴と目が合ってしまった。

完全にバレてる…。

細身のスーツをスタイルよく着こなす奴。
艶のある黒い前髪を後ろに流した賢そうな額、意志の強そうな眉、切れ長の目、高い鼻、どこからどう見ても眉目秀麗で世の女性を魅了する薄い唇が意地悪そうに弧を描いている。

神城鷹臣(かみしろたかおみ)

同期で同じ営業企画部。
今日までは犬猿の仲と言われながらも同じ営業として切磋琢磨して成績を競い合った仲だ。
けど、来週からは彼は主任、私はアシスタント…。

片や昇格、片や降格。
同じだけ、いや、女というハンデを乗り越えそれ以上に頑張ってきたのに。
なぜ…

「俺付きのアシスタントを断ったそうだな?なんで?お前の担当分も俺が引き継ぐんだから大変なんだけど?」

しれっとそんなことを言うこいつにふつふつと怒りが込み上げる。
顔だけ後ろを振り向ききっと睨んだ。

「だれもあんたになんて頼んでないわよ!自分でやるって言ったんでしょ主任様!偉くなったものよね!人の営業先取っといてそのアシスタントに付けだなんて、ホント鬼か悪魔だわ!」

「おい、俺が決めたわけじゃないだろ?やるかやらないか聞かれたからやると答えたまでだ。それにお前を俺のアシスタントにしたのは正木部長だろ?」

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