悔しいけど好き
「鷹臣は、怖くない…」

それは愛情がなせる技なのか、嫉妬に狂って私を乱暴に扱った時も私は鷹臣を怖いとは思わなかった。
それよりも鷹臣が離れていく方が断然怖いと思う。
鷹臣の頬に触れ涙を拭うと一瞬目を見開いた鷹臣は恐る恐る訊ねてきた。

「凪、触れてもいいか?」

小さく頷くと鷹臣も私の頬に触れ親指で涙を拭き私が拒否せず受け入れたことを確信すると力強く引き寄せ抱き締められた。
鷹臣の濡れた肩は冷たかったけど抱きしめる胸は温かくて私は背中に腕を回した。

「ああ…凪、ほんとにごめん。でも、お前に逃げられたら俺は生きていけない…」

私の肩に頭を乗せ冷たい髪の毛が頬に当たる。
ため息を吐くように呟いた言葉は大袈裟だと思うけど、腕に力を込める鷹臣の力強さを感じながら私も実感した。
私も鷹臣がいなくなったら生きていけない。


……


「体が冷えてるじゃないか。髪も濡れたままだしこのままじゃ風邪を引く」

暫く抱き締め合い沈黙した後、鷹臣は鼻をすすりながら私が冷たいのを心配し出した。
自分も濡れてることを思い出しスーツを脱いで、自分の事はそっちのけでタオルを手に取り頭をごしごしと拭かれドライヤーをかけられ、乾いたと思ったら抱き上げられベッドへと連れてかれる。
私を抱いたままベッドの上に座り布団を被り温めてくれた。
気力体力共に失われた私はされるがまま鷹臣にしなだれかかる。

「少し眠るといい」

暖かさに微睡んでいるとそう言われ小さく頷いて私は目を閉じた。
鼻の頭に何かが触れ小さく囁かれる。

「おやすみ凪、愛してる」
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