悔しいけど好き


力を抜き項垂れると体を解放され後ろにいた山本さんに背中を労るように叩かれた。
大人しくなった俺を見届け正木部長が的確に指示をする。
野次馬の数人の社員には名前と部署を聞き見たことは公言しないように言い含めた。
美玖さんに凪のことを任せ奴の方を向く。

「場所を移そう。袴田専務も来てもらいますよ」

「僕に命令できる立場か君は!?」

「立場はなくとも来てもらいます。この状況を説明できるのはあなたしかいないのですよ?」

「僕は誘われただけだ!」

「おまっ…!」

憮然とした態度でうそぶく奴に怒り心頭で、目の前を通り過ぎようとする奴に再び殴りかかろうとするも山本さんに阻止される。

ビクッと肩を震わせた奴は押さえられてる俺を一瞥してふんと鼻を鳴らし襟を正して正木部長に付いていく。
悔しげに奴を睨みつけていると「ほら、お前も行くぞ」と、バシッと肩を叩かれた。
奴の姿が消え、舌打ちをして凪が気になり振り向いた。

凪はしゃがみこんだまま耳を塞ぎ震えていて、美玖さんに背中を擦られていた。

「凪…」

近寄ろうとすれば美玖さんに見咎められ横に首を振られる。

「……すいません……凪をお願いします」

頭を下げ踵を返す。

くそっ…俺が守ろうとしたものはなんだったんだ?
結局凪を危険な目に合わせて傷付けた…。
不甲斐ない自分への怒りと後悔で握りしめた拳が軋む。
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