悔しいけど好き
「鷹臣は何もしてないでしょう?」

「俺が!…俺があいつに興味を持たれるようなことが無かったら凪にあんなことはしなかったはずだ」

顔を上げた鷹臣は苦しそうに眉根を寄せまた視線を落とす。
膝の上に乗せられた左の握り拳は関節が赤くなっていてフルフルと震えていた。
その拳に手を添え顔を上げた鷹臣に私はさっき言えなかったことを伝えた。

「でも、鷹臣は助けに来てくれたでしょう?助けてくれてありがと」

「凪…」

「私はもう大丈夫」

悲痛な目で私を見る鷹臣に笑いかけるとがばりと抱きしめられた。

「なんで凪はそんなこと言うんだよ!もっと俺を怒れよ!詰れよ!心に酷い傷を負ったはずだ!お前は大丈夫なんかじゃない!」

鷹臣に呆気にとられて必死な鷹臣の様子に思わず笑ってしまった。
自分のことのように辛そうな鷹臣を見てると私は逆に落ち着いていられる。

「ふふっ…」

「凪?」

「鷹臣が代わりに怒って嘆いてくれるから、私は心穏やかでいられる気がする。辛い役目になっちゃってごめんね?」

笑う私に体を離し訝しげに見てくる鷹臣に肩を竦めながら笑いかけた。
そんな私を見て脱力した鷹臣はまた私を抱きしめる。

「凪が幸せでいられるなら辛いことは俺が全部受け止めてやる。凪はそうやって笑ってればいい」

「…ありがと鷹臣」

私も同じだよ。
鷹臣が辛い顔をするなら私は何でもないって笑ってあげたい安心させてあげたいと思う。
それは強がりではなく心からそう思えるんだ。
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