悔しいけど好き

夕方着いた片田舎の駅は懐かしい潮の匂いがする。
駅の裏手は私の名前の由来でもある凪いだ海が広がっている。

駅を出てパラパラと行き交う人々を尻目に、うーんと背伸びし深呼吸をして潮の匂いを思いっきり吸い込んだ。



「凪!」



名を叫ばれビクッと肩を震わした。
間違いじゃなければあの声は兄弟の声ではなく……。

今聞きたくない声にまさかという思いで恐る恐る声のする方へと目線を向けた。

どう見ても怒り心頭という顔でズンズン歩いてくる男にまたビクッと硬直した。


「な…なな、何であんたがこんなとこにいるのよ!」

やっと出た言葉は情けないほど震えて目の前に来た男の顔を見れなかった。

「お前が全然返事しないからだろ!電話も切りやがって!俺がどんな思いで来たと思ってんだ!」

手首を掴まれ怒鳴り散らす奴にぴきっと青筋が立つ。
冷静さは失われこれからは穏便に奴と関わろうなんて考えはもうどこかへ吹っ飛んでいった。

どんな思いだぁ?彼女が出来て浮かれてる奴の思いなんて知らないんだよーーー!


「そんなの知ったこっちゃないのよ!彼女出来たんでしょ!彼女のとこ行きなさいよ!私の前から消えて!」

反対の手に持ってた荷物とお土産の紙袋を奴にぶつけ掴まれた手首を振りほどいて奴と距離を取る。
怒りで頭に血が昇ってゼイゼイと肩で息をした。

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