最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
 
「駄目だナタリア! そこは危険だ!」

イヴァンの叫び声に気づいた衛兵が慌てて振り返る。

虚ろな目をしたナタリアはすぐそこにある階段を見向きもせずに足を踏み出そうとして、あわやというところを近くにいた衛兵に腕を掴まれ止められた。

「いやぁああっ! 離して! 助けて! 助けて、ローベルト!」

王宮の壮麗な玄関ホールにナタリアの絶叫が木霊する。

腕を掴まれたナタリアは泣き喚いて抵抗するが、衛兵もここで放してしまう訳にはいかないことを承知している。それでも子供のように涙を流して嫌がる皇后を捕まえ続けることは精神的に楽なものではなく、イヴァンが駆けつけてナタリアを抱きしめるまで衛兵はずっと苦悩の表情を浮かべていた。

「大丈夫だ、ナタリア。誰もお前を傷つけない。さあ、安全な場所へ行こう」

イヴァンはナタリアの体を包み隠すように肩を抱き、危なくない場所へ誘導しながら歩いていく。

「さあ、ナタリア様。こちらへ」

駆けつけた女官長もナタリアを安心させるように声をかけ、侍従らが先回りして燭台や花瓶など危ないものを排除していった。

もはやコシカ宮殿では見慣れた風景となったこの異常な一幕を、初めてスニーク帝国を訪れた異国の大公たちは玄関ホールで唖然としながら見ていた。
 
 
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