最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 

――九月。

新婚旅行を兼ねた長い旅路から帰ってきたナタリアは、イヴァンと周囲の期待も虚しくすぐに毎日心を乱すようになった。

イルジアで一時的に快方の兆しを見せた分、皆の落胆は大きい。

宮廷では「やはりこの地にはローベルト様の呪いがかかっているのだ」と無責任な噂が流れ、ナタリアの側近たちは皇后をイルジアで転地療養させるべきだと毎日のようにイヴァンに請願した。

それでもイヴァンは毅然とし、ナタリアを皇后として扱い共に公務をこなした。現状を嘆かず、苦しみも悲しみも決して誰にも見せずに。

そんな日々を送る中でのことだった。

プルセス王国の大公が外交団と共に、領土の条約についてコシカ王宮へ会談にやって来たのは。

プルセス王国からの重要な客人であるため、皇帝夫妻は直々に王宮の玄関ホールにある大階段まで出迎えをした。現状、プルセス王国はスニーク帝国と友好的な関係にある。今回、条約の全権を委任され初めてスニーク帝国を訪れたハルデンベルク大公も親和的な人物で、挨拶を交わしたイヴァンとすぐに会話が弾んだ。

異国からの来客を出迎え雰囲気が和んだことで油断したのだろう、イヴァンはハルデンベルク大公に気をとられ、周囲の者も一瞬ナタリアから注意が逸れた。

けれど、その一瞬を悪魔は見逃さなかった。
 
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