最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「きっとお元気にしてらっしゃいますよ。皇帝陛下は雪の国の王です。寒さなどに負けるわけがありませんから」
「それもそうね」
向かいの席に座る侍女の励ましに、ナタリアも柔らかな笑顔を浮かべる。
けれど、心配なのは風邪だけではない。彼は今回は前線には立たないと言っていたが、それでも戦地にいる以上は危険がつきまとう。
それに加え、ナタリアは漠然とした不安を抱いていた。自分の考えすぎだと思いたい。けれども――。
「……陛下は、私のことを忘れてしまわないかしら……」
馬鹿げていると思いながらも、口から呟きが零れてしまった。侍女が向かいの席で目を丸くしている。
「何をおっしゃっているんですか。皇帝陛下ならばナタリア様のことをお忘れになるどころか、きっと一日に何十回も思い出しては会いたいと願われていますよ」
おかしそうに笑う侍女の言葉は、きっと正しい。それなのにナタリアは不安なのだ。
自分と離れたことでイヴァンが――心の安らぎを覚えてしまうことが。