最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
ナタリアは分かっている。自分が不治の病のせいで周囲に迷惑をかけ、イヴァンを苦しませていることを。
意識を失くしているとき、自分が何をしているのかは分からない。誰も教えてくれない。けれども周囲から向けられる奇異の目や、嫌でも耳に入ってしまう陰口から、自分が奇行を起こしていることは薄々感じていた。そしてそのせいでイヴァンが激しい苦悩を抱えていることも。
先月、プルセス王国から訪客があったときもそうだった。ハルデンベルク大公を始めとする外交団はナタリアに対してよそよそしい態度をとり続けた。意識を失ったとき大事な賓客の前で奇行をさらしたのかと思うと、ナタリアは消えてしまいたいほどの恥辱を覚えた。
けれどそれ以上にもっとつらいのが、手に取るように伝わるイヴァンの苛立ちだった。
彼は奇行をさらしたナタリアに怒っているのではない。ナタリアを止められなかった自分と、自分の妻があからさまな嘲笑を受けているこの状況が耐えられないのだ。
そんなイヴァンを見ることが、ナタリアはつらくてたまらない。
自分はどうして夫に迷惑をかけ恥をかかせ苦しませることしかできないのか。どんなに努力してよき皇后であろうとしても、この理不尽な病がすべて無にしてしまう。
いっそ、愛想をつかされ国へ帰された方がいいのではないかと何回も思った。けれど、悲しいことにナタリアはイヴァンを愛しているのだ。