最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「ローベルト……どこ……ローベルト」

呟くナタリアの瞳には、何も映っていない。ここではないどこか遠くを見ながら、還ってこない男の名を呼ぶ。

「探しにいかなくちゃ……ローベルトを、探しに」

ブツブツと独り言ちながら体を起こそうとしたナタリアの肩を、イヴァンは掴んで強くベッドに押しつけた。

「……俺を見ろ、ナタリア! お前の夫だ! お前はこの俺の、イヴァンの妻になったんだ!」

怒鳴るつもりではなかったのに、感情が抑えきれなかった。

十年以上想い続けてきたナタリアを、ようやく妻にできる夜のはずだった。祈りにも似た願いを打ち砕かれて、イヴァンは神の無慈悲さに絶叫したくなる。

男の手で力づくで肩を押さえこまれて、ナタリアの顔が恐怖に染まっていった。

「いやあぁっ! やめて! 誰か! ローベルト、助けて!」

肩を押さえるイヴァンの腕に爪を立てて、ナタリアは泣きわめきながら頭を左右に振って暴れる。

「ローベルト! 助けて、ローベルト!」

「ローベルトはもういない! 俺を見るんだ、ナタリア!」
 
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