最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
ゆっくりと唇を離した後、幸福に酔いしれる彼女の青い瞳を見てイヴァンは胸が苦しくなる。
ナタリアに愛されナタリアを幸せにするのは自分だけだという思いが込み上がる。
(ナタリアの願いは俺がすべて叶える――ローベルトではなく、夫であるこの俺が)
偉大なる神の前で、イヴァンは誓った。この先どんな困難が待ち受けていようとも、ナタリアを生涯愛し抜くことを。
そして願った。いつの日か彼女の心が九年前の呪縛から解き放たれることを。
「……愛している。この世界の誰よりも」
目の前の妻にしか聞こえぬ声で囁いた言の葉は、主教の紡ぐ祝文に紛れて、消えた。
荘厳な式が終わった後は、王宮で晩餐会に舞踏会と華美な祭典が催される。
とはいえナタリアはまだ足が完治していない。ふたりは舞踏会で一曲だけスローテンポなメヌエットを踊ると、あとは会場に坐した玉座に座って舞踏会を眺めた。
今日の主役が早々に腰を下ろしてしまったことに不満そうな客もいたけれど、それでも舞踏用の深紅のドレスに飾帯を飾った艶やかで気高いナタリアの姿に、多くの者が感嘆のため息をついた。
宮廷楽団も今宵は君主の祝宴のために、より一層美しい音色を響かせている。
流麗な音楽に合わせて踊る人々を、ナタリアは玉座から楽しそうに眺めていた。