最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「……無事に一日が終わりそうですね。よかった、きっと神の思し召しですね」
イヴァンの隣に控えて立っているオルロフが、小声でそう言った。
イヴァンは口もとにわずかに笑みを浮かべ、黙ったまま頷く。
たった半日のことだというのに、ナタリアがここまで心を乱さなかったことが奇跡のように思えた。オルロフの言う通り、神にこの婚姻を祝福されたような気がする。
このまま彼女が心をさまよわせなくなったならばどれほど幸運なことか。さすがにそれが無理だとしても、今日を機に快方に向かってくれればとイヴァンは願う。
そんな思いを馳せ自然と顔を綻ばせていると、玉座のひじ掛けに乗せていた手にそっと細い指が乗せられた。
横を見るとナタリアが何やらモジモジとしながらこちらを向いている。
「どうした?」
イヴァンが尋ねれば、ナタリアは少し俯かせた顔に上目遣いで口を開いた。
「……もう一曲だけ、イヴァン様と踊りたいのです。踊ってはいけませんか?」
どうやら賑わう会場を見ていたら、いてもたってもいられなくなったようだ。
イヴァンは刹那キョトンとした表情を浮かべると、手に乗せられていた指に自分の指を絡めてから言った。
「無理をしては後で足がつらくなるぞ」