君色に染まる
「センセ、今日はハロウィンです。お菓子をくれなきゃイタズラしますよ?」


ゆっくりと顔を近づける。
だけど、センセは俺の顔に何かを押し付けた。


「残念ながら、お菓子はあるの。イタズラは諦めて」


押し付けられたのは、板チョコだった。
あんなに可愛かったのに、瞬間的に堅物センセに戻ってしまった。


……残念だ。


俺がお菓子を受け取り、センセの用事は終わったはずなのに、センセはマントの中から出ていかない。


「……市原君」


俺の名前を呼び、上目遣いで俺を見てくる。
再び理性を壊しにきているのか。


「トリックオアトリート」
「……え」


あれだけハロウィンパーティーに反対していた人の言葉とは思えなかった。


「五、四」


センセはカウントダウンを始めた。
俺はセンセから離れ、ポケットの中に手を突っ込む。


「三、二」


お菓子が見つからない。


「一」


どうしてあんなに準備したのに、自分で持っていなかったんだ。


「ゼロ」


そう言った瞬間、センセは俺の襟元を掴んで、引き寄せた。
抵抗ができなかった俺は、センセに唇を奪われる形になってしまった。


「……俺、かっこ悪い」
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