残念な上司に愛の恐竜料理を!

4杯目


 次の日の午後、学校から何事もなく帰宅したセラミックは、自分の部屋でセーラー服をハンガーに掛けると、そのまま何も身に付けなかった。約束通り早速、下着姿のまま生活するつもりだ。
 
 昨日は感情の昂ぶりに任せて堂々と脱いで『裸宣言』を家族の前で告知したが、一日経過して冷静になってみると、かなり恥ずかしく、みっともない事態だと改めて思った。
 とにかく落ち着かず、スースーとする。夏場でよかった……いや、暑い季節でなければ、思い至らなかった宣言なのかもしれない。
 
 そうだ……水着なんだと、ビキニで生活すると思えばよいのだ。無意識の内に防衛本能が働いたのか、今日の下着は原色の分厚い生地の物を選んでいた。上はオレンジ色のスポーツブラ、下は同色の陸上選手が穿くようなローライズのブルマっぽいデザインの物だ。
 
 勢いよく部屋のドアを開けると廊下で弟の公則とすれ違った。彼は見ても触れてもいけない物のようにセラミックから視線を逸らし、気まずそうに下を向いたのだった。生意気にも思春期の奴は、姉が本気でブラとパンツのままで歩き回るのかどうか、わざわざ確認しに来たようにも思えた。でも一目見るなり失笑されなくてよかったと、ほっとしたのも事実。
 だめだ、だめだ! 恥ずかしそうに振る舞うと、逆に収拾が付かなくなりそうな予感がする。セラミックは自分の髪を掴んで左右にかぶりを振った。
 そのまま度胸を試すように半裸で勇ましく下の階まで降りていくと、洗濯物を取り込み中の母親は、頬に手を添えて呆れたように言ったのだ。

「あら、まあ~。本気でパンツ一丁で過ごすつもりなの? その頑固な性格は正に父親譲りね。いいわ、私はもう何も言わない。美久が言った覚悟に対する本気度を、この目で見届けさせてもらうわ」

 セラミックの心が、爪楊枝でツンツンされたように、ほんのちょっぴり疼いた。母親の良識で、この珍妙な状況を止めさせて欲しいと内心期待していたのかもしれない。だが、初日から逃げたりすれば自分の信条を否定し、家族の前で意思の弱さを露呈してしまう事になるのでは?

「いや~、この開放感……最高! 涼しくて身軽で気分が清々とするわ。ママも私と一緒に裸になってみたら?」

 スポーツブラに包まれた豊かな胸を覗かせながらセラミックが言うと「裸にエプロンなんて父さんが卒倒するわ」などと、ビジネスライクな口調で手短に答えたのだった。

 その後、ブラパンツにも慣れてリビングルームで欠伸しながらテレビを見ていると、自宅兼店舗のカレー屋を切り盛りする父親が休憩に入ってきたようだ。セラミックは、わざとらしくソファーで俯せになって両足を交互に曲げたり伸ばしたりしながら、お尻をフルフルさせてみた。
 父親が一瞬、うな垂れて溜め息をついたのが何となしにキャッチできたのだ。

「風邪ひくんじゃねえぞ、馬鹿娘」

 テレビの音に混じって雲散霧消してしまうような小声だったが、セラミックには確かにそう聞こえた。
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