20年越しのラブレター
 車に外気温が表示されている。現在37度。
暑いはずだ。
俺は車を降りた瞬間から汗が噴き出すのを感じながら、店の扉を開ける。

カランカラン

心地よい音でドアベルが鳴る。

「いらっしゃいませ」

紬は鉛筆を置いてサッと立ち上がり、よく通る明るい声で紬が出迎えてくれた。

「お客様は、当店は初めてで
 いらっしゃいますか?」

紬に尋ねられて言葉を失った。

紬が俺を覚えていないことは分かってた。
分かってたけど、こうも正面切って言われると、さすがにショックだ。

いや、だけど、ここから始めるのも悪くない。

俺は気を取り直して答える。

「いえ、昔、何度かお邪魔したことが
 あります」

俺がそう言うと、紬はにっこりと微笑んで言った。

「それはいつもありがとうございます。
 3年前に店主が変わりまして、今は私が
 承っております。
 どのような物をご希望ですか?」

スーツ用の生地を並べてある棚へ足を向けた紬の背中に向かって、俺は答える。

「そこの赤いドレスを」

紬は怪訝な顔で振り返る。

「ドレス…ですか?」

「はい。
それと、この後のあなたの時間も一緒に」

「えっと、それは… ?」

不思議そうな顔で首を傾げる紬は、やはりかわいい。

「この後、このドレスを着て、私に同行して
 いただきたいのですが、何かご予定は
 ありますか?」

「いえ」

戸惑った表情の紬を他所に、俺は財布から現金を取り出した。

「じゃあ、ドレス代と合わせてこれで」

レジ横のトレイにそれを置くと、紬は目を見張る。

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