愛というもの~哀しみの中で~
恭吾を抱き上げてリビングに戻る。お風呂に入り、寝かせると眠れずにリビングに出てきた。
そこで先ほど大下さんという女性が置いていった名刺を手に取った。
○×弁護士事務所、弁護士……名前を見て息が止まるかと思う衝撃があった。
………大下透子

気にしないようにしてても頭から離れない名前…戸籍上の母親欄に書いてあった名前だ。
でも、でも、同じ名前の人はきっと何人かいてもおかしくはない…
動悸がして冷や汗が溢れてきた。苦しい…また過呼吸だ。
慌てて袋を口元に当てる。気づけば汗と涙が混ざって顎から落ちてズボンを濡らしていた。

私は呼吸が落ち着いてからもそのまま何時間もリビングに座り込んで放心していた。
私の母としては若かった。もう私も26才だし、きっと40代後半から50代くらいだろう。
さっきの女性は30代後半から40代前半くらいだと思う…。子供が産めないって言ってたし…。
その日の夜は一睡も出来なかった。

翌日の夜、真さんから『週末に泊まりがけで少し遠出をしよう』ってメールが届いた。

『大下さんという女性が訪ねてきました。もううちには来ないでください。恭吾は私がちゃんと育てますから安心してください。今まで甘えてしまってごめんなさい、これからは自分のために生きて下さい。ありがとうございました。』

そう返信すると、すぐに電話がかかってきていたけど出ると泣いてしまいそうで無視をした。
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