いつも、ずっと。
きっと"東京ばな奈"は口実だったんだろう。

明日美が青柳さんから持ちかけられたと言う相談事について、話してくれた。

「田代先輩と遠距離のままで続いていく自信のなくなってきたって……。だけん長崎におって付き合える人の方がいいとやろかって悩んどるらしかっさ」

確かに遠距離になって長いもんな。

田代先輩が高校卒業してからだから、もう九年くらいにはなるだろう。

このままでいいのか、不安になる気持ちも分からなくはない。

しかし先輩のことだから、きちんと考えてはいるはずだ。

待てよ、明日美と俺の今の関係はもっと長い。

明日美だって不安なのか?

遠回しに俺に何かを訴えようとしているんじゃ……。

俺もボヤボヤしてられないな。

「そいけん誰か探そうってしよるとか……。で、なんでダブルデートってことになっとると?」

「それは、さすがに知らん相手と二人きりとか気まずかっていうし。とりあえず何人かで遊びに行くみたいな感じがよかっじゃないかなってなったと。私も親友として、未来のために協力してやりたかし」

青柳さんはただ、先輩を本気にさせるための切っ掛けを作りたいだけじゃないのか?

「なんか、田代先輩ば裏切るような気のすっけんあんま気乗りせんけど……。明日美に頼まれれば嫌とは言われんけんな」

ダブルデートか。

しかし、青柳さんの相手は?

一体誰を紹介しようというのか。

明日美が俺以外の男と接点があるとしたら、仕事関係か。

……まさか!?

「私の同じ会社の同期に『瀬名くん』っておるやろ?未来が瀬名くんに会ってみたかって。まあ私の知り合いの男の人って友也以外には会社の同僚くらいやろ。未来ができれば年の近い方がよかけど、年下は嫌って言うし。まあ瀬名くんならイケメンやし、未来の希望に一番合うかなって」

嫌な予感は当たることが多い。

しかし、悟られないようにわざと素っ気ない態度を取った。

明日美の同期の『瀬名圭司』

俺はコイツの事を以前から知っていた。

同級生で中学高校と軟式テニスをやっていたんだから、顔と名前くらいは覚えていたし。

それに瀬名の話は田代先輩からも聞いていたから。

『アイツは俺の事を裏切ったんだ。絶対に許せねぇ』って。

だから俺も瀬名の事が嫌いだった。

テニスの練習試合でも敵対心を持ってたし。

あの日までは。

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