目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。

追想④(蓮司)

「結婚して欲しい」

その言葉に、百合は驚きを隠せずにいるようだった。
真正面から俺を見つめ、逸らすことも出来ずに固まっている。
思いもよらない言葉だったんだろうが、せめて何か言ってくれないとこちらも落ち着かない。

「あ……えと……」

漸く百合が口を開いた。
だが、言葉にならない。

「うん?」

何か言いやすいように、優しく尋ねるように聞いてみると、百合は少し落ち着いた。
そして、大きく深呼吸して言う。

「……冗談ですよね?」

冗談……?冗談でこんなこと言わない!そんなに、ふざけた人間じゃない!と言う言葉を咄嗟に飲み込んだ。
彼女の立場になって考えてみれば、そう思うのも当然だ。
大学時代に会ったきり全く連絡もなく、教授が亡くなってから突然葬儀に現れ、家に訪ねてきたかと思えばしつこくご飯に誘う。
挙げ句の果ては、一週間くらい夕食を共にしたくらいで「結婚してくれ」では、俺でも冗談だと思う。
いや、変質者と思われないだけマシかもしれない。
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