目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。

追想(百合)

暗闇の中溢れる記憶の波に溺れる。
今までの出来事が、まるで昔の映画のフィルムのように映し出され、私は、その一つに思わず手を伸ばした。


父、八神憲一郎が、国立大の薬学部の教授に就任して5年目の春。
その時、私は高校2年生だった。
母は既に亡くなっている。
その為、小さい頃から家事の全般を引き受けていたけど、それを苦痛に思ったことなどなかった。
料理も、洗濯も、掃除も、父の世話も……どれも私にとっては大したことではない。
ありがとう、と微笑んでくれる父を見るだけで幸せだったからだ。
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