目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。

エピローグ

長くて、短い夢が覚めようとしている……。
時間の流れのない暗闇から意識が浮上すると、私の目はゆっくりと光を捉えた。

「ん……」

白い天井を見て、あ、こういうの、どこかで体験したな……と思った。
そう、あの時は殺風景な病院の一室だった。
でも、ここは違う。
サントリーニ島を彷彿とさせる別荘の中の寝室だ。
古い記憶と新しい記憶が、ゆっくりと溶け合って全てが私のものになる。
それはとても心地よく、かかっていた靄が晴れ虹がかかるような感覚だ。

私は全てを思い出した。
自分のことも、他の人のことも。
そして、何より大切な人の記憶と、宝物のような思い出を取り戻した。
ベッドの左側で酷く心配そうな顔をした彼のことを、私は全て思い出したのだ。

「……百合っ!?」

ベッドの側に屈み込み、近くで叫ぶ蓮司さんに笑顔で答える。
すると、彼は安心したのか嗚咽を漏らすようにため息をついた。
かなり心配したんだろうな……。
ごめんなさいと呟きながら、その頬に手を伸ばすと、彼はその手に自らの頬を押し当てた。
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