目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「はい」

「ちょっと!!蓮司?どうして繋がらないのよ!?」

いきなり金切り声が響いた。

「……切っていたんだ」

「はぁ!?……まぁいいわ。今日会える?話があるの?大事なね」

「そうか。いいよ。こっちも話があるんだ。大事なね」

そう返すと、笙子は少し沈黙した。
いつもの俺と違う、そう感じたのかもしれない。

「そう……じゃあ、ベイサイドホテルのラウンジでいいかしら?」

「構わないよ。そこで」

「ええ、待ってるわ」

そう言うと、笙子はすぐに電話を切った。

「今日トドメを刺すんですか?」

目の前で直立不動で聞いていた三国さんが、真面目な顔で言う。
トドメとは上手いことを言うな、と感心した。
意気込み過ぎて、張り詰めていた緊張が解れ、ふと笑いが込み上げる。
ベテラン秘書とは、上司の気分を解すのも仕事の内なのか?
それなら、もっと給料をあげないといけないかもしれない。

「上手く行くよう祈っててくれ」

「ええ。頑張ってください。相手は女狐、化かされないように祈っております」

本当に上手いことを言う。
俺は感心しながら、手荷物を纏め、敏腕秘書と共に会社を後にした。
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