綴る本
「……そういうことか」
「気付いた所でもう遅いわ、立ち昇れ業火よ」
 ニヤリと口元を吊り上げ貴族とは思えぬレイミィーの笑み。
 雲雀の身体の内側が紅く煌めきながら外側へと弾け飛ぶように熱力量体を奔流する。
 十三羽が連鎖する炎。
 その中心にいるユラ。
 轟炎が天井まで立ち昇る壮観。
 周囲に撒き散らす熱波に髪が後方へと荒れるように流れる。
 油断する心を引き締め直すレイミィーは、はっきりと感じていた。
 この程度で勝敗が決する相手でないことに、ランゴの実が破裂していないことに。
 依然周囲に細心の注意を払いながら、轟炎が徐々に納まっていく。
 晴れた先に――
「……やっぱり……ね」
 ――ユラはいない。
 直ぐ様索敵する動作に切り替えたレイミィーは、視界に頼るより五感に頼り何かを感じろようとする。
 突如、レイミィーの身体が転がるように前に跳んだ。
 レイミィー自身その時の行動を言葉にして説明するとしたら、理屈でも感情でもなく、ただ気付いたら前方に跳んでいた、そう言葉にする他ないのである。
 背後を振り返ったレイミィーの視野に入ったのは、床から上半身だけが出ているユラが黒い尖った剣を持っている姿だった。
 注意して詳しく見ると、自身ののびる影からユラが現われていた。
 少し驚いた表情のユラがヌメリと影から這い上がって、黒い剣を消す。
「今のは以外だった。気配は完全に断った上での背後からの攻撃を察知されるとはな」
「……あの炎上はわざと避けなかったの……ね」
「そこまでわかってるのか」
 笑みを零すユラ。余裕からくる笑みなのか、それとも――
「炎上が姿を隠し、気配を断ち、魔法を扱くし、背後に回る」
「それら全てを完璧にするなんて、あなた一体何者よ?」
 レイミィーは信じられないといった表情でユラを見ている。発言からも表情と同様の思いが汲み取れるだろう。
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