身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
ため息交じりに言った俺に、彼女は零れるような笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
女はだいたい俺のルックスを見て、赤くなったり媚びたりするものだと思っていた俺は、まったく俺などみることなく、猫をみる彼女が新鮮だった。

それが俺の礼華の第一印象、礼華はもちろん覚えてなどいないだろう。

それから俺は、しばらく礼華を会社で目で追うようになっていた。
本社に戻ってからも、なんとか礼華のいる会社に行けるように、実力も積んで、ようやく専務として就任することが決まりそうな時期に、道で空を見上げる礼華を見た。

どうしても話しかけたくて、俺に気づいてほしくて、初めて自分に芽生えた感情に戸惑いつつも、礼華に自分のマフラーを渡した。
少しでも俺を見て。
そんな気持ちだったのかもしれない。

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