身代わり婚～偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています～

後継者として、やらなければならないことを優先し、自分のことなど後回しにしていた俺は、会社の脇で一生懸命何かをしているその女に気づいた。
もちろん、声を掛けることも興味もなく、立ち去ろうとしたとき、グイッと引っ張られて俺は振り向いた。

「手伝ってください！」
特に目立つところもなく、急に命令され、可愛げのない女だな。そんなことを思ったのを覚えている。

しかしあまりにも切羽詰まった声に、彼女が一生懸命手を伸ばしているビルとビルの隙間を見た。

ああ、ネコか……。

小さな小さな猫を一生懸命出そうとしている彼女。
俺は小さくため息を付くと、彼女がなんとか暴れているのを抑えているところに手を伸ばす。
そして、ひょいと猫をつまみ上げた。

そして彼女の手の平にすっぽりと乗せる。
「これでいい？」