愛され秘書の結婚事情

 ひとまずケーキの箱だけを手に、彼はリビングダイニングに向かった。

 部屋と玄関に距離があるせいで、七緒はまだ彼の帰宅に気付いていないようだった。

 開け放たれたドアからリビングに入り、彼は目の前のダイニングテーブルにケーキの箱を置いた。

 その直後、「桐矢さん!?」と驚いた七緒の声がした。

 彼女はキッチンの奥で、完成したシチュー鍋の火を消したところだった。

「びっくりしました。お帰りになっていたんですね!」

 慌ててキッチンから出て来た彼女に、悠臣は笑顔で「ただいま」と挨拶しようとした。

 そのつもりだった。

 だが現れた彼女の姿を目にした途端、彼は言葉を失くし、ポカンと口を開いてその場に立ち尽くした。
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