愛され秘書の結婚事情

「ですがご存知の通り、私には結婚相手どころか、お付き合いしている男性もいません。ですから来週の誕生日が過ぎたら、私は実家に戻って、親の決めた相手と結婚しなければなりません」

「結婚しなければなりません、て……。そんな時代錯誤な……」

「確かに時代錯誤ですが、幼い頃からそう躾けられましたし、親の反対を押し切って上京するには、その条件を飲むしかありませんでした」

「いやいや、おかしいでしょう。どうして親がそこまで子供の人生に介入するの。別に佐々田さんの家は、歌舞伎とか能の家柄でも、華族というわけでもないでしょう。普通のお宅だよね?」

「そうです。ですが一応、二十代以上続く旧家ですし、本家や分家といった制度も残る古い家風なので、本家の長女である私が好き勝手にしていることは、分家への示しがつかないと……」

「なにそれ、江戸時代の話!? 本家とか分家とか、示しがつかないとか……理解できないよ!」
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