愛され秘書の結婚事情

5.


 シティビルのスイートルームで、ベッドの上にうつ伏せに横たわった七緒は、「はぁ……」と大きな息をついた。

「……信じられない」

 その隣に座る悠臣も彼女も、全裸だった。

 有無を言わさずこの部屋に連れて来られて、有無を言わさず抱かれた七緒は、けれど心地よい疲れに穏やかな笑みを浮かべた。

「ごめんね」

 あまり悪いと思っていない口調で、悠臣が詫びた。

「だけどあのままだと、僕が仕事にならなかったから」

 その言い訳にクスリと笑い、七緒は「たかがキスです」と言った。

「悠臣さんが気にするほどのことではありません」

「たかがキス、されどキスだよ」
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