愛され秘書の結婚事情

エピローグ.


 ゴールデンウィークを過ぎた五月下旬の日曜日。

 悠臣は七緒をドライブに誘った。

 高級セダンの代名詞とも言えるベンツ車だが、実はスポーツカーも古くから作っている。

 悠臣の愛車は完全二人乗りのオープンスポーツタイプで、高級ブランドの車にしては値段も手頃な六百万円台だが、使われている素材もシートも全てが高品質で、七緒は助手席に座るたび、その乗り心地にびっくりする。

 天気は快晴で、初夏の風が爽やかに頬を撫でていった。

「どこへ行くんですか?」

 彼女の問いに意味深な笑顔で無言を返し、悠臣は途中で一軒の花屋に寄った。

 そこで彼が白いバラの花束を購入したのを見て、七緒は「もしかして」と思った。

 彼女の予感は当たり、車はある霊園の駐車場に着いた。

 鎌倉市の海を臨める高台の墓地は、緑に囲まれ季節の花が美しく咲き、公園のように広々としていて、陰鬱な空気とは無縁の場所に見えた。

 頭上の青と眼前の青に目を奪われながら、七緒は黙って悠臣の後について行った。
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