愛され秘書の結婚事情

「そう、わかった。……部屋は、ここの二階だったね」

 ハイヤーの運転手を車で待たせたまま、悠臣は五階建てのアパートを見上げた。

「前に僕、もっとセキュリティのしっかりした、上階の部屋に引っ越した方がいいよって言ったはずだけど。そんなにここが好きなの?」

「いえ。でも引っ越すにも費用がかかりますし、手間も時間も……」

「転居費用も出すって言ったよね。引っ越しは業者のお任せパックにしたらいいとも言ったよね」

「さすがにそこまで会社に甘えるわけには……」

「会社じゃない。僕が出すんだよ」

 いつになくつっけんどんな口調で言いたいことだけ言うと、悠臣は小さく嘆息した。

「だけど君が、意外と頑固な人だってことは知ってるよ。だからもういい」
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