愛され秘書の結婚事情
「…………」
(もういいって……それは、もうすぐ辞める人間だから、どうでもいいってこと……?)
いつも温厚で優しすぎるほど優しい悠臣の、今までになく冷たい態度にショックを受け、七緒は返す言葉もなく立ち尽くした。
「……おやすみ。もう家に入りなさい」
父親か教師のような口調で命じ、悠臣は七緒に背を向けた。
完全に見捨てられた気分で、七緒は泣きそうな気持ちを殺し、「はい」と答えた。
「おやすみなさいませ。お気をつけてお帰り下さい」
無言の背中に深々と頭を下げ、七緒は小走りで建物の中に入った。
郵便受けを確認することもなく、そのまま駆け足で二階の自室まで行った。
紙袋に収まった通勤バッグから鍵を取り出し、乱暴に開けて閉める。
後ろ手に鍵を掛け、廊下の明かりを点けた。