愛され秘書の結婚事情

 役員は皆、社長の方針を支持してか元々そういう風変わりな性格なのか、各々が個性的な秘書を使っている。

 元ハッカーだったやたらITに強い専務秘書とか、薬学科を出た薬剤師の資格を持つ常務秘書とか、武道の段が合わせて二十段という格闘マニアの秘書室室長とか、とにかく全員キャラが濃い。

 新人役員で秘書の人選にこだわらなかった悠臣に、“フツウな秘書”の七緒があてがわれたのは、ある意味当然の人事とも言えた。

 辞令が出た当初、女嫌いの常務に女性の自分は敬遠されるのではと七緒は考えたが、男女区別なくフラットな態度の悠臣からすれば、秘書の性別など問題ではないらしい。

 また周囲も、地味で目立たず、道路脇で咲く雑草花のような七緒が、華やかで目立つバラか蘭のような容姿の悠臣の隣に控えていたとしても、その存在を気にも留めない。

 そして七緒自身、自分と上司が周囲からどう見られているかを、よく理解していた。

 優れた記憶力と管理能力を持つ七緒の、一番優秀な点がこの“客観的な視点と思考”にあった。

 悠臣はそんな七緒のことを、秘書として信頼し何でも任せてくれる。

 七緒にとってはそれが何より誇らしく、どこにいても目立つ常務の黒子役として徹することに、大きなやりがいを感じていた。

 しかし仕事が順調な彼女は今、個人的に深い悩みを抱えていた。
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