悪役令嬢になりきれませんの。
さよならする令嬢。




都心にお茶会に行っていたお母様がとてもキラキラしたお顔で戻ってきてから、早くも3週間がたった……この3週間は短くもあり、とてもとても充実した(長く感じた)3週間がたった……




何があったかと聞かれれば長くなる……




まず1つ目……お母様の提案で、私が元料理長に教えた数々のデザートを食べれるお店を出さないか?と言われ経営なんてしたことがない私は、まさかほんとうに店を開くなんて考えていなかったから【どっちでもいいです。お母様に任せますわ?】なんて言ってしまう……そんな私にお母様が、お店を開くとしたらどんな感じのお店がいいかしら?と聞かれて、前世のカフェをイメージし、母に伝えれば、3日後に都心で【カフェ・シャルネー】がオープン……平民と貴族関係なく同じ場所で食べる。ということから最初は抵抗があったのか、そこそこの客数だったみたいだが……今や王妃様ご贔屓の店。として、千客万来……作っても作っても客足が途絶えない繁盛ぶりだとか……



そして、2つ目……
カフェがオープンしたその次の日に、私が作ったイアリング、それに合わせてラルラにドレスのデザインを描いてもらったのだが……ちょうどお母様のドレスを新調しに来ていたバーバルド(仕立て屋)さんがそのデザインと私をお母様の所に持っていき……デザインを見たカナルが何故か店を出しませんか?と聞いてくる……それを見て聞いていたお母様がニコニコしながら【どうせシャルネラちゃんのことよ?どっちでもいい。なんて言うのよね?】なんて言って、私の返事を聞くまでもなく二つ返事で承知してしまい……これまた都心で【シャルフィー】と言うお店を一日でオープン……




そして、3つ目……
私たち一家が、私の学園入学……ということもあり、都心に移動することになった……





あれ?どれもこれも約一週間で終わってない?あれ?これってもしかして……お母様とカナル……前もって物件用意してたんじゃねぇ?なんて、思いながらもラルラと小川に向かう……




小川には既にアルベがいて……サラサラと緩やかに流れる悲しそうに眺めていた……そんなアルベに神聖なる何かを感じながらもそっと近づき背後から抱きついた……ラルラ……そんな冷めた目で見ないで……えぇ、知ってますよこの行動がレディーらしくない。ってことぐらい……ね。でも、あなたも慣れたでしょ?ラルラ……




「シャルネラ?……どうしたの、突然……」




そう言ってアルベを包み込むように前に回った私の腕にそっと触れながらもアルベが聞いてくる……




「アルベが……どこか遠くに行っちゃう気がして……」




天国から天使が……パトラッ………ゴホン……とりあえず……僕はもう疲れたよ……(君が眩しすぎて)なんて……心の中で呟きながらもアルベから離れて、隣に座る……そんな私にアルベはどこか寂しそうに微笑んでいた……




「あのね、シャルネ「アルベ!あのね、お母様が都心でカフェと洋服屋を経営することになったの!」…………そうなんだね。シャルネラのお母さんが経営するなら、きっと上手くいくよ!」




アルベの言葉を遮りそういえば自分の事のように嬉しそうに言ってくれる……それからも何度かアベルの言葉をさえぎった……が、何十回目かのアルベの言葉を遮ろうとした時。アベルの両手で口を塞がれる……そうかと思えば真剣な瞳で見つめられ、話を聞かざるおえなくなった……もちろん、逃げることだってできる……でも、アベルの瞳に囚われ、動けなかった……




静かになった私にごめんね。と呟き私の目を見たまま両手をはなす……そして、一息ついてアルベの口が開く。





「シャルネラ……ごめんね……僕、都心でやることが出来たんだ。だから、ここから離れなきゃ行けない……」



「やること?あっ、会った時に言ってた……後継争いのこと?」




そう聞くとアルベは頷く……アベルが言うには……兄に家を任せられないから。という理由らしい……




「僕の兄はね……ゴミと言ってもいいほどの人間なんだ……自分さえ良ければ周りなんてどうでもいい。自分が悪くても、金で解決しようとする。だから、何人の人が犠牲になって、あの家から出ていかされたか……僕はそんな兄が嫌で逃げてきた……正直、どうなってもいいと思った……だけど……僕は、嫌われてもここで生きようとしている君をす…んごいと思った。だから僕も、【き……た……も】この国のために頑張るよ……」





す……んごい?何それ、変なの……。途中何を言ったかわかんないけど……国のためって……大袈裟ね。なんて、アベルの何かを決めたような顔をしているアベルには、大袈裟だね!なんて、笑いながらも言えなくなった……だから私も真剣な目でアベルの手を掴む……





「アベルなら大丈夫だよ!なんて、無責任なこと言えない。けど、そんな強い決意を持ってるならちゃんと目標に向かって行けるよ。でも……偶然ね!」




「え?」




「私も明日……都心に移るの。学園に入学する歳でね……だから、今日、お別れを告げようとしたんだよ。」




「学園に入学!?どうしてだ!君は言ってただろ!学園に入学し……卒業の時に……殺される……って……」





いつものように、隠しているが気品がダダ漏れのアルベでわなく、戸惑いと悲しみと怒りを混ぜた難しい顔をしながら、私の肩を掴む。それに、驚きアルベを私から離そうと動き出したラルラを手で止める。




「アルベ。誰しも避けては通れない道があるの。貴族の家に産まれたからには、学園に入学する義務がある。貴方もそうでしょ?どこの国のご子息かは分からない。けど、跡目争いがあるのならば貴方も学園に入学することになる……だから、また会いましょ。」






この世界では平民の子供が親の仕事を継ぐには、よっぽどの才能を持ってうまれるしかない。もし才能がなくて家を継ごうと思うなら、下っ端のうちに大きな成果をあげなければ……自分の親の店や仕事を継ぐことは出来ない。親の仕事や店を継ぐことができるのは、貴族の子供だけ。だから、跡目争いがあるというアベルの家はさっきの兄の話を聞く限り、貴族だと思った……





「……隠してた、つもりだったんだけどな……」




「どうして?」




「私に近づくのは、いつもいつも家の名前目当てだったから。」



「……私もそうだと思ったの?」




なんて聞いた私に、アルベが顔を伏せ、頷く……それを私は鼻で笑う。




「いいこと!家の名前なんて関係ない。大事なのは貴方がどう人と向き合うかよ!爵位に目がくらんで人の顔を見ていざと言う時に動けないんじゃ意味が無いの。相手が爵位目当てな奴はこっちが利用してやればいい。逆に人を利用するなら、自分が利用された時のことを考えて相手にバレないように利用しなさい。大人って意外とずる賢いのよ?」




「……シャルネラ。ごめんね、言ってることが分からない……けど、君は君なりに私のことを励ましてくれているんだと理解していいのか?」



「……うん。ごめん。自分でも何言ったかわかんないや……」





なんて苦笑して私に確認するアルベ……私もつられて苦笑する。そんな私にラルラのため息が聞こえてくる……





「シャルネラ……都心でまた必ず会おう。その時私はシャルネラが言う、ずる賢い大人になって、君の命を脅かす者を倒してやる……」



「え?んー。なら、私は……貴方と周りを騒がせる立派な悪役になってみせるわ!アベルがずる賢い大人になってたとしても、その上を行くアルベには絶対に負けないんだから!!」




なんて、笑い合う私達……






「必ず、会おうね……約束よ?」



「あぁ、約束だ。私は私で君は君。君が言うには爵位なんて関係ないんだろ?」




「えぇ。無いわ……私とアルベは友達よ……」




「友達……か……分かった。次会った時は…………」





アベルの最後に呟いた言葉は聞こえず、風に乗って消えていった…………



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