太陽に抱かれて

 あのまま二度目の眠りにつくこともできず、ももは早朝から動き出した。

 それも、珍しく北部へと向かう列車に乗ることなく、メトロに揺られ辿り着いた先は、プラス・モンジュ駅だった。なにか大事な用があったわけではない。ただ、今日だけは、“そんな”気分だった。
 プラス・モンジュ駅はパリ五区に位置しており、アパルトマンのあるトルビアック駅からは約五分、七番線の駅だ。もものお気に入りの場所のひとつでもあった。
 駅を少し出て坂道を登ると黄色い看板のファーマシー(ドラッグストア)があって国産の化粧品をかなり安く買えるだとか、近くのブーランジェリーのカスクートが絶品だとかそういった理由もなくはないが、駅を出てすぐの坂を登り、そして、下っていくと、カルティエ・ラタンの街並みが広がるのだ。
 朝早いこともあり、ブーランジェリーくらいしかシャッターは開いていないが、散歩にはうってつけだった。

 絶品のカスクートを手に入れて、しばらく漫然と歩く。朝のさっぱりと空気に包まれたパリの街並みは、ただの日常を映し出しているだけなのに、やはりどこを切り取っても絵になる。
 古き良き時代の雰囲気を残した街。それはヴェルノンもジヴェルニーも変わらない。だが、どちらかというと――いいや、せっかく、パリにいるのだ。
 ももは脳裏に浮かぶ光景を今だけは隅へと追いやって、カルティエ・ラタン散策に勤しんだ。
< 29 / 45 >

この作品をシェア

pagetop