ラヴシークレットスクール ~消し去れない恋心の行方



キスを交わした八嶋クンとの距離が少し近くなったあの夜
あの時から居酒屋の前で立ち去る背中を見送った入江先生との距離がもっと遠くなった気がする

そんなことが頭を過ぎったせいで、問診表が挟み込まれているバインダーに紐で繋がれている消しゴム付の黄色い鉛筆を握り締めたままだったあたし。


「あの・・・・」


受付スタッフの声とは異なる声をかけられたほうへ顔を見上げると
目を見開かずにはいられなかった。



「高島先輩・・・ですよね?」

白衣を身に纏った背が高くすらりとした女性の姿を捉えて。


『・・蒼井・・・?』

「・・・ええ、お久しぶりです。」


こんな時にまさか再会するとは思っていなかったあたしは

『どうして?』

久しぶりだねと穏やかに微笑みかけることもできないまま
彼女にそう問いかけていた。


あたしの失礼な態度に蒼井も少し驚いた様子だったけれど
彼女はすぐさまニッコリと微笑んでくれた。


「このクリニックで働いているんです。理学療法士というリハビリのスタッフとして。」

『ここの病院だったんだ。』

「昨年度末まで浜松市内の総合病院にいたんですけど、この春からこのクリニックに移ったんです。驚きましたよね?」

『うん、ビックリ。』


蒼井と話しながら想い出した
伶菜さんに自分が蒼井と間違えられたことを入江先生の前で口にした際、彼が蒼井と再会したと言った時のことを

入江先生にとって大切な存在である日詠さんと伶菜さんを教えてもらったことで
彼に少し近づけていると思っていた最中に知った彼と蒼井との再会


“一歩、、、進んだと思ったのになぁ” とうっかり呟いたあたしに
“ちゃんと進んでいたみたいだ・・・・蒼井は・・な。”
と応えてくれた入江先生


寂しそうな横顔を覗かせた彼に
あたしはスキですって告白したけれど
先輩と後輩という彼とあたしの関係は変わっていない



『蒼井・・・じゃないんだね。永橋さんなんだ。』

「ええ、半年前に結婚しました。」



そんなあたしとはどうやら対照的な蒼井
入江先生が口にした “蒼井が前に進んでいたみたいだ” というのは
こういうことなんだろうか?


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