アンティーク

あっという間に、コンクールがやって来た。

二週間ほど前にあったクリスマスは、結局コンクールのことを考えると30分ほどしか楽しめなくて、将生さんとレオくんに謝ってすぐにその場を後にした。

出番は次で、私たちは今舞台の横にいる。

前の人が弾くヴァイオリンを聴いていると、その緊張は時間と共に比例してくる。

私の演奏なんかよりも何倍も上手で、その音楽に聴き入ってしまう。

その私の緊張が隣にいる翼くんに分かったのか、彼は私の手を握って「大丈夫だよ」と囁いてくれた。

私は今流れている音楽を消すために、頭の中で自分の弾く曲を流す。

そして、集中する。

翼くんが言ってくれた「大丈夫だよ」を何度も何度も心の中で呟く。

「さあ、出番だ」

前の人の演奏が終わり、ついに私の番になった。

翼くんは私の両手を包んでもう一度「大丈夫だよ」と言ってくれる。

コンクールは何度も経験しているのに、やはりこの緊張はいつになっても慣れない。

でも今日は、きっと大丈夫。

だって、伴奏者は翼くんだから。

「じゃあ、行こうか」

翼くんは、表に出る直前に私に満開の笑顔をくれた。

それを受け取って、舞台へと向かって歩いて行った。
< 115 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop