アンティーク
あっという間に、コンクールがやって来た。
二週間ほど前にあったクリスマスは、結局コンクールのことを考えると30分ほどしか楽しめなくて、将生さんとレオくんに謝ってすぐにその場を後にした。
出番は次で、私たちは今舞台の横にいる。
前の人が弾くヴァイオリンを聴いていると、その緊張は時間と共に比例してくる。
私の演奏なんかよりも何倍も上手で、その音楽に聴き入ってしまう。
その私の緊張が隣にいる翼くんに分かったのか、彼は私の手を握って「大丈夫だよ」と囁いてくれた。
私は今流れている音楽を消すために、頭の中で自分の弾く曲を流す。
そして、集中する。
翼くんが言ってくれた「大丈夫だよ」を何度も何度も心の中で呟く。
「さあ、出番だ」
前の人の演奏が終わり、ついに私の番になった。
翼くんは私の両手を包んでもう一度「大丈夫だよ」と言ってくれる。
コンクールは何度も経験しているのに、やはりこの緊張はいつになっても慣れない。
でも今日は、きっと大丈夫。
だって、伴奏者は翼くんだから。
「じゃあ、行こうか」
翼くんは、表に出る直前に私に満開の笑顔をくれた。
それを受け取って、舞台へと向かって歩いて行った。