ウェディングベル
それは当たり前なのだけれど、幼なじみとはいえ赤の他人との思い出をいちいち事細かに覚えている事に、私は少しだけ驚いた。
忘れられていると思っていた思い出も覚えていて、私の忘れていた思い出も古屋千秋は覚えていた。
一つ一つ思い出されていく埃の被った過去に、私は暫く思いを浸らせていた。
あの時は純粋に、何度だって「好きだ」というコトが出来た。
確か、古屋千秋にも同意を得たと思う。
それは子どものお遊び。それは子どもの戯れ。それは子どものたわ言。それは子どもへの社交辞令。
「あ、ねぇちー兄。丘に行きたい」
「丘?丘ってあそこの?」
言って、古屋千秋が指差したのは、この街を少なくとも三分の二ほど見下ろすことの出来る小高い丘。
「うん、あそこ」
そういって私は怖々ジャングルジムを降りて、早速丘へと向かおうと古屋千秋を手招いた。
彼はあっちこっちに振り回されて、小さく溜息をつきながらも私の隣を歩いてくれる。
私はいつも彼に甘えていた。
彼の傍は居心地がよかった。
同年代の男には無い余裕と、甘えさせることの出来る関大さ。甘えを許してくれる器の大きさ。
そして大人の男が持ち合わせていない、時折見せる大人びた子どものような表情。
その全てが眩しかった。
「お前、もうちょっと他人に合わせるって事を覚えろよ」
「ちー兄以外にはちゃんと合わせてるから大丈夫」
「お前なぁ」
「早く!」
そういって、手を繋いだ。