ウェディングベル
私はこんなにも心臓が煩いくらいになっているのに、盗み見た古屋千秋は対して心臓が高鳴るそぶりも無く『しょうがないな』と眉を寄せて笑っている。
なんでこんなにも違うのだろうか。
何故私だけこんなにも痛くて痛くて仕方が無いんだろうか。
この痛みがこの手を伝って、この人の心臓にも、伝わればいいのに。
そうすれば、同じ痛みを共有して、同じ痛みに震え、同じ痛みを抱きしめて、慈しみ、癒しあうことが出来るのに。
もしかしたら、古屋千秋は別の痛みを抱いていたのかもしれない。
私には気づかない所で痛んでいたのかもしれない。
それは私の事でもあり、違うことでもある、痛み。
柳玲について、考えていたのかもしれないし、違うかもしれない。
私の思いに気付いていて、それに答えられない、痛み。
私はわかりやすいほどに古屋千秋を見つめていたのだ。
幼いあの日も、大きくなった今も。
心の中で何度も何度もその名を呼んでいた所為で、古屋千秋には声が届いてしまっていたのかもしれない。