続・政略結婚は純愛のように
「やっぱり、奥さんがいるとやりにくいわね!」

少し甲高く響く女性の声に由梨はびくりとして立ち止まった。
 忘年会は宴もたけなわで、もう間も無くお開きとなるだろう。
 由梨は帰り支度の前に山辺と連れ立ってお手洗いに立った。
 その戻りの廊下で運悪く受付のメンバーの一団に遭遇してしまったのだ。
 反射的に由梨と山辺の二人はたまたま飾ってあった大きな植物に身を隠した。

「本当に!!なんだか遠慮しちゃうもの。あーあぁ、私たちの一年に一度の楽しみだったのにぃ。」

全然遠慮なんてしてないじゃないと山辺が呟いて由梨は思わず吹き出した。
 もうこの手の陰口には傷つかない。
 けれどまさか堂々と出てゆくわけにもいかず困ってしまう。
 会場へ戻るにはどうしても彼女たちのいる場所を通らなくてはならなかった。

「でも今井さんって去年までは秘書課にいたんでしょ?忘年会だって一緒だったはずなのに全然記憶にないわ。…どういうこと?」

「地味な子なのよ~。でもよく考えたら秘書課の女性みんな、あんまり社長に興味なさそうだったわ、なんでかしら。あんなに素敵なのに。」

「近くにいすぎるとありがたみがなくなるのかなぁ。…それか本当は身近にいる人にしかわからないような変な趣味があるとか!」

きゃー!と言って盛り上がっている彼女たちに由梨は思わずくすくすと笑いを漏らした。
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