続・政略結婚は純愛のように
「…どこか行きたいところはあるか。」

突然降って湧いた幸運に由梨は、うーんと考えこんだ。
 結婚前は今井家の者として恥ずかしくないように振る舞えと極端に行動を制限されていて、必然的に外出は少なかった。
 けれど制限されれば人はそれに憧れるもので、この寒い地方ならではの場所を思うままに訪ねていけたらと、考えていたのが…。

「ちょっと待ってて下さい!」

そう言ってベッドを出ると自分の本棚から一冊の本を持ってくる。
 付箋の貼ってあるページを開いて隆之に見せた。

「…酒造見学か。」

隆之は口元に手を当てて呟いた。
 由梨は少しドキドキとしながら頷いた。
 由梨の日本酒好きは当然隆之も知っている。
 そんなに多くはないが一緒に囲む夕食では必ずと言っていいくらい日本酒を二人で楽しむ。
 取り寄せた酒の製造方法、味の特徴、それからそれに合う肴など思うままに由梨が話すのを隆之は飽きもせずに耳を傾けてくれる。
 時々、スナップの効いた質問が飛んでくることもあって、そんなところはさすが大手商社の社長だと思う。
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