続・政略結婚は純愛のように
「…マリアから個人的な連絡は続いてるのか。」

隆之はまた黙秘する。
 陽二はため息をついた。
 "ノリス"の女社長、葉山マリアはイタリア人の父と日本人の母の間に生まれたエキゾチックな容姿が売りのモデルだ。
 数年前に立ち上げたファッションブランドが好調で事業家としても成功を収めている。
 彼女は隆之の東京時代の恋人だ。
 別れてからは互いにコンタクトはとっていなかったが、ビジネスパートナーとして連絡先を交換したのが1年ほど前のこと。
 由梨との結婚が明らかになったあたりから個人的な連絡が増え始めた。
 多忙を理由にほとんどは断ってはいるが、彼女に取引先の社長としての肩書がある以上、無下にもできない。

「…奥さんはお前とマリアのこと知ってるのか。」

隆之は首を振った。

「俺の過去のことは…何となくは知っているだろうが具体的に誰とは知らない筈だ。」

「…でも、マリアは当時でも多少は売れてただろう。ちまたでは話題になったじゃないか。」

陽二が疑わしげに言う。
 確かに、すでに有名になりつつあったマリアとの交際はとくに隠してもいなかったから、騒がれたのは覚えている。
 けれどそれはあくまでも隆之の周りだけの話だ…。
 いや待てよと隆之はもう一度記憶を手繰り寄せる。
 由梨の従姉妹だと言っていた女が、マリアの友達だと言っていたような。

「…言っておいた方がいいんじゃないか。」

陽二のアドバイスに隆之は黙り込む。
 そうかもしれない。
 けれど自分がマリアとどうこうなる気がない以上、言ったところで由梨を不快にさせるだけだ。
 企画課で新しい仕事にまい進する彼女の妨げになるようなことは避けたかった。
 ただでさえ彼女は疲れているのだから。
 隆之は小さく首を振った。
 陽二が、ため息をついた。
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