花はいつなんどきも美しく
愛子はうるさいと言わんばかりに両耳を塞ぐ。


……誰のせいだ。


「聡美が体調悪いって言うから、失恋のせいだろうなって思って、ママと真司を行くように仕向けたの」


そういうことか。
なんてことしてくれたんだ。


「失恋引きずってないってことは、男に癒してもらったんでしょ?で、聡美は見ず知らずの人に抱かれるような女じゃない。てことは、ママと真司しかない」


その選択肢の絞り方は乱暴だと思う。
けど、間違ってないから腹が立つ。


「ほらほら、言ってごらん?」


愛子は必要以上に顔を近付けてくる。
言えるわけないし、言ったとしてもからかわれるのは目に見えているから、言いたくない。


でも、愛子は言わないという選択肢を選ばせてくれない人だ。


どう逃げようか悩んでいたら、始業時間になってしまった。


愛子は舌打ちをし、自分の席に戻る。
私は助かったと、胸をなで下ろした。


「えーと……では、本日も頑張りましょう」


魂の抜けた園田雪が不必要とも思えるような、やる気を奪われる挨拶をした。


そんなやる気ないなら帰れとでも言ってやろうと思ったけど、昨日仮病で休んだせいで仕事が溜まっていて、園田雪に構っている余裕なんてなかった。


昼休みになるまで、目の前の仕事に集中した。


「岩本聡美、完全復活!って感じだね」


休憩時間になった途端やって来た愛子は、パンを一口かじる。


「やらなきゃ終わらないだけ」


そして何も食べないで仕事を続けようとしたのに、愛子にパンを口に突っ込まれた。
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