花はいつなんどきも美しく
その言葉は想像以上に胸に染みた。
じわりと涙が浮かんでくる。


だけど、耳まで赤くした悠之介を見ると、それはこぼれ落ちなかった。
むしろ、引っ込んだと言うべきか。


「……照れてるの?」


聞いてみるけど、悠之介は答えてくれない。
それどころか、店に戻ろうとしている。


私は悠之介のあとを追い、顔を覗き込む。


でも、悠之介は私と目を合わせずに進んでいく。
どうやら、本当に照れているらしい。


それがなんだか面白くて、つい頬が緩んでしまう。


「何を笑っているのかしら?」


悠之介は不服そうに私の頬に指を指す。
これが悠之介の照れ隠し、というやつか。


口調が元に戻っているし、なんだか可愛らしくて私は余計に笑ってしまう。


「悠之介でも照れたりするんだね」
「それはまあ、この年で誰かに好きだとか、可愛いだとか言うなんて思ってなかったし」


いや、割と普段から言ってると思うよ。


「恋愛も、しないと思ってたから」


意外だと思った。
悠之介はたくさん恋愛したいのかと、勝手に思ってたし。


「それは……なにか理由があって……?」


暗くて、悠之介がどんな表情で言ったのかはわからない。
だけど、なんとなく、悠之介の声が悲しそうに聞こえて、私は様子を伺うように聞いた。
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