花はいつなんどきも美しく
すると悠之介はくすくすと笑いだした。


「出会いがなくなっただけ」


……私の心配というか、気遣いを返せ、コノヤロー。


私ははっきりとそう言わず、拗ねたように頬に空気を含ませる。


「……お店を出してからは、ずっとあそこが大切で、恋愛よりも優先してきたんだ。だからこそ、もう自分には無縁なことだと思ってた」


出会いがなかったのもたしかだろうが、こっちが本当の理由だろう。


そのとき丁度、悠之介は街灯の下を歩いた。
前を真っ直ぐ見つめる悠之介の瞳は真剣で、かっこいい。


私の視線に気付いた悠之介は、私のほうを見て、ん?というような表情をする。


照れてしまった私は、顔を逸らす。


「恋愛を捨てるくらい、店が大切なんだ?」
「夢だったからね」


どこまでかっこいいんだ、この人は。


「誰でも気軽に来れて、なんでも話せる店ってのが理想なんだ。だから、それが現実になってるあの店は、本当に宝物だよ」


こういうことを照れずに言っているところは素敵だ。


「オネエっぽい喋り方も、店のためだったりして」


恋愛対象が女だったり、一人称が俺だったり、慣れたようなあの喋り方だったり。
オネエじゃないのでは?と思うには十分すぎる一面を、私は見てきた。
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