花はいつなんどきも美しく
これはもう、本当に断れないやつだ。


「……わかりました。すぐに行きます」


電話を切ると、悠之介に電話をかけた。


「聡美ちゃん?どうかした?」


悠之介の声を聞いただけで、涙が出そうになる。


「……行けなくなった」
「ん?」


私の声が聞き取れなかったのか、悠之介は優しく聞き返す。


「今、仕事が入って……デート、行けなくなった……ごめんなさい……」
「なんだ、そんなことか」


悠之介は安心したように言う。


そんなこと?
悠之介は私とデートしたいって言ったのに、ドタキャンされてもそんな軽くいられるの?
楽しみにしてたのも、デートできなくなってショックなのも、私だけなの?


「デートはいつでもできるんだから、気にしなくてもいいよ。俺は、これくらいのことで聡美ちゃんを嫌ったりなんかしないから」


泣かせる気か、こいつは。


完璧なメイクがダメになるじゃないか。


「仕事が終わったら店においで。聡美ちゃんが大好きなもの用意して待っててあげる」
「でも、何時に終わるかわからないよ?」
「いつまでも待ってる」


これが大人の包容力というやつか。
本当に泣きそうだ。


「……ありがとう、悠之介」
「うん。頑張っておいで」


誰でも言えるような言葉なのに、それは魔法の言葉のように感じた。


さっさと終わらせて、悠之介のところに行くんだ。
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