さよなら、片想い
「あー、それともギャップで売ることにしたんですか? 普段はこんなだけど、実は怖がりですーみたいな」
 
 岸さんは梯子を登ると、手順を確認してから私に降りるように言った。
 岸さんが上で待機して、私が下から机を手渡していく。
 私が持ったそばから岸さんがぐいっとさらっていく。


 さっきまでの苦労が嘘のようにあっという間に終わった。
 お礼を言って持ち場を離れようとした。

「高い場所はどうってことないけど、君に避けられるのは怖い」

 息が止まる。そっと伺う。

「やっとまともに顔を見た」

 岸さんはふうと息を吐いた。

「避けてるよね? 原因はまあ、わからなくはない」

 昨晩、駐車場で抱き合ったことを言っているのだと思う。
 岸さんは私が宏臣のところへ行ったことを知らないから。
 気まずさの理由が他にあることを知らないから。

「ちゃんと話したい。話がしたい」

「私も話したいです」

 私は、逃れたい気持ちばかりでどうしたらいいかを考えられなくなっていた。
 でも、話したいと伝えることができた。
 言わされた感じもある。

 岸さんは大人だ。私を然るべき方向へと導いてくれる。
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