さよなら、片想い
「岸さん」

「ああ」

「なんで、こんなことするんですか」

 ふっ、と息を吐く気配が頭の上であった。

「抱きついてきたのは君のほうだろ」

 あ、若干ひどい。しかも、言いながら髪を撫でている。

「そうだけど。ぎゅって、したい気持ちにさせたのは岸さんです。岸さんが」

「待って」

 撫でていた手が止まり、私を引き剥がした。
 少し離れただけなのに途端に空気の冷たさを感じる。

「今の、もう一回言って」

 岸さんの瞳が覗きこんでくる。私からこぼれ落ちるものをひとつも逃すまいと言われている気がして、逃げたくなった。


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