ねぇ・・君!
雨降りの中での告白
この日は、初夏をむかえていた
こともあってオフィスでは、
クールビズを取り入れて社内の服装も
軽装となっていた。
そんななかで、英明は清香を連れて
「フレンチカジュアル」の
本社オフィスに出かけていた。
本社オフィスで、清香は英明から
佐伯常務と本社オフィスの営業部長と
係長に紹介されてあいさつをしていた。
「天野寿子係長だ」
「広瀬清香です。
よろしくお願いします」
「こちらこそ」
実は、清香が英明と本社オフィスに
出かける時のことだった。
「清香さん、ちょっといいかな?」
「何か、ありましたか?」
清香に声をかけてきた
恭輔から言われたことがあった。
「天野係長だけは、気をつけろよ。
天野係長は、課長の元奥さんだから
犬猿の仲なんだよ」
「そうなんですか」
「課長と離婚をしてから、
天野係長の嫌がらせがあったんだよ。
清香さん、気をつけてね」
この時、恭輔から聞いたことは
3年前に英明と寿子が、
性格の不一致で離婚をしたこと。
結婚して家庭に入ってほしい英明と
結婚しても仕事を続けたいと言う
寿子との間に亀裂が入ったのは
言うまでもなかった。
「広瀬くん、少しつきあって
くれないか?」
英明は、本社オフィスを出てから
自分の支店オフィスに戻るまでの間に
清香に言ったのだ。
英明が清香を連れて行ったのは、
高槻オフィス時代に必ず入った
喫茶店だった。
「課長、天野係長との経緯は
恭輔さんから聞きました。
いろんな意味でつらかったのだと
お察しいたします」
「広瀬くん、オレはキミを
仕事だけでなく、プライベートでも
守っていきたい」
「えっ?課長、悪い冗談を
言わないでください」
「いやっ、けっして悪い冗談じゃない。
キミが初めてオレのオフィスに
来た時から、キミのことが頭から
離れなくなっていた」
「私のようなさえない女性は、
課長には似合いません。
どうか、今言った言葉は
忘れてください。
私も、今ここで忘れますから」
そう言った清香だが、
英明から告白されるとは
思ってもみなかったことだった。
やがて、二人は喫茶店を出た。
外は、雨が降っていた。
雨の降るのを予想していたのか
清香は、折り畳みの傘を用意していた。
しかし、傘を一本しか
持っていなかったのだ。
「課長、よろしければ
傘に入られますか?」
「ありがとう、優しいんだね。
オレは、そんなキミが好きなんだ」
そう言うと英明は、
清香にキスをしていた。
外の雨で、二人の姿を
隠しているようであった。
「清香、これからはオレが守っていく。
安心してオレに飛び込んできてくれ」
「課長、いいのですか?
私は、過去につらい恋をしただけに
課長の言葉に甘えていいのですか?」
「オレを課長と呼ぶのは、
オフィスにいる時だけでいい。
こうして、二人でいる時は
オレを英明と呼んでいい。
オレたちは、彼氏と彼女に
なったのだから」
「英明さん、あなたを信じて
いいんですね」
雨が降るさなか、
ぬれねずみになっていた。
そんななかで、英明は
清香を抱きしめていた。
英明に抱きしめられて
清香は、この人を
信じていこうと思っていた。
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