ねぇ・・君!
沙織さんの職場復帰
季節は、初夏から紫陽花の似合う
梅雨の季節に変わっていった。
「毎日、雨だとゆううつね」
「しかし、去年の空梅雨よりは
マシだと思うよ」
孝之と香菜が、口々に言っていた時に
清香が出社してきた。
「清香さん、おはようございます」
「おはよう、孝之くんも香菜ちゃんも
朝早くからありがとう。
本来なら、私もお手伝いをしないと
いけないのに申し訳ないわ」
「何、言ってんですか。
私たちは、清香さんに助けられて
きたから頑張れるんですよ。
そうよね、孝之くん」
「そうですよ。清香さんは、
外回りに行って帰ってきた
僕たちに、優しく接してくれる
じゃないですか。
これは、僕たちの細やかな
気持ちでやっていることです。
だから、気にしないでください」
清香の温かい心遣いは、
新卒で入ってきた
孝之と香菜に伝わっていた。
そして、同じ営業事務で
入社をした夏子にも
慕われるようになってきていた。
それだけではない。
営業部社員である恭輔と
今では総務事務を担当している
雪恵からも一目置かれるように
なっていた。
そんな清香の仕事ぶりを
部下として信頼しているのは、
英明であった。
「おはよう、孝之も香菜も早いな。
なかなか、謙虚でよろしい」
そう言ったのは、恭輔であった。
「おはようございます、恭輔さん」
「清香さん、おはよう。
もうすぐ、夏子と雪恵さんが来るよ。
二人とも同じ沿線だから、
同じ電車で一緒に来ているようだよ」
「そうなんですね。
これで全員がそろったら
課長の到着を待つばかりですね」
「その課長なんだけど、
今日は本社オフィスに寄ってから
出社すると連絡があったんだよ。
実は、高槻オフィス時代に
ケガで入院をしていた営業部社員の
沙織が、退院をして今日から
職場復帰をすることになったんだ」
「沙織さんのケガが治ったんですね。
よかったですね」
「これで、営業部社員は
沙織を加えて4人となるわけだ。
孝之、香菜、しっかり手綱を
締めてやっていくぞ」
「おはよう、みんなは早い出社なのね」
「雪恵さん、おはようございます。
夏子ちゃん、おはよう」
「おはよう、みんなが
私たちのオフィスを
盛り上げていこうとしているのね」
「孝之くん、香菜ちゃん、
いつもオフィスの掃除
助けてくれてありがとう。
本当は、私と清香さんが
することなのに申し訳ないわ」
「そのセリフは、
清香さんも言ったわよ。
あたしと孝之くんは、
日頃できることを
やっているだけだから、
夏子も気にしないで」
「そうそう、いつも事務仕事で
頑張っている雪恵さんと清香さん、
そして夏子ちゃんのために
できることを僕たちは
やっていることだからね」
そんななかで、英明が
本社オフィスから戻ってきて
出社をしてきた。
そして、この時に初めて沙織が
新しいオフィスに出勤をしてきた。
「さて、今から朝礼をする。
今日から、ケガで休職をしていた
吉永くんが復帰することになった。
これから、営業部は4人で
手綱を締めて頑張ってほしい。
それじゃ、吉永くん。
新しいスタッフがいるので、
自己紹介を兼ねてあいさつをしてくれ」
「初めましての人が多いと思います。
営業部の吉永沙織です。
職場復帰をしたばかりで、
慣れないところがありますが、
新しいオフィスで頑張って行こうと
思います。よろしくお願いします」
「沙織、新しく営業部に入った
孝之と香菜。そして、営業事務の
清香と夏子だ」
「よろしくお願いします」
「みなさん、よろしくね」
沙織は、新しいオフィスに来て
戸惑いがあったのだろう。
その沙織を、優しく気遣ってくれた
英明に感謝をしていた。
ところが、そんななかで
沙織が新しいオフィスに加わったことを
苦々しい気持ちで見ていた人間がいた。
それは、本社オフィスの
営業部係長の寿子であった。
かつて、寿子の部下として
働いていた沙織が高槻オフィスに
人事異動になってから、
高槻オフィスの営業成績が
多く伸びていた。
それだからこそ、沙織が職場復帰を
したことが許せなかったのだ。
それは、自分が沙織に
ライバルとして意識を持っていたのは
言うまでもなかった。
「絶対に、沙織をつぶしてやる。
沙織だけじゃなく、英明も
必ずつぶしてやる」
寿子が、英明にここまで
目の敵にしているとは、
想像していなかったことだ。
これが、嵐の前ぶれになろうとは
この時、英明のオフィスの仲間は
誰も知る由もなかった。
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