かすみ草の花束を。


「綺麗…」

黒崎先輩の目とそっくりだ…

髪の毛はショートカットで、病気だったとは思えないほどの元気そうな表情。
私は黒崎先輩のお母さんに手を合わせた。

「はじめまして。 私、花咲小枝と申します…黒崎先輩の後輩です」

誰もいない部屋で、私は喋り始める。
だけど先輩のお母さんはきっと、どこかで聞いてくれてるはずだ。

「先輩にはとても優しくしていただきました…お母様も、とても優しいかただったんでしょうね。

お母様…黒崎先輩を、生んでくれて、本当に…ありがとうございます…!
これがずっと…言いたかったんです。

これからも先輩のこと、どうか守って下さい…」

私はそう言ってお母さんの写真をジッと眺める。

ほんとに、綺麗…

だけど…ずっと綺麗なまま。
このままなんだ……

これから先輩のお父さんはどんどん歳をとっていくし、黒崎先輩だって大人になっていく。

そしていつか、先輩はお母さんの歳を追い越す。

それがどれだけ切ないことか……

自分だけ歳をとれないことが

一緒に歳をとれないことが

一緒にシワを増やして笑えないことが

どんなに寂しいか……

考えると鼻がツーンとして一瞬で涙が出てきた。

お母さんはどれだけ一緒に歳をとりたくて、黒崎先輩の成長をどれだけそばで見たかったことだろう。
きっとそれは、私が想像するよりはるかに強い思いだと思う。

「うぅ…」

私はしばらくの間、静かに涙を流していた。

感謝しなければいけない。

自分が生きていることにも

大切な人と共に過ごせることも

全部、奇跡なのかもしれないから。


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